柊くんは私のことが好きらしい
「ひまりちゃん、ご指名入りましたー」
教材を鞄から机にしまっていると、赤茶のツインテールを揺らす咲(えみ)が歩み寄って来た。その背後に見える教室の出入り口付近には、誰も待っていない。
「どういうことでしょう……」
「だからぁ、高遠さん呼んでくれませんか?って。またかよ!って思わず言いそうになったわ。ほんっと飽きないってか、3人で呼び出して何すんの? この子ずっと好きだったんだからとか、付き合うなとか言っちゃうの? 校舎裏とかに追い込んで? ウケんだけど! いい加減ひまりがメグの彼女第一候補だってこと認めろっつーのに。まあ気持ちわかんなくもないけどさぁ。あ、断っといたから」
まるでついでの如く言った。マシンガントークが始まった瞬間に諦めかけちゃったよ。
「追い払ってくれたのね。ありがとう、助かった」
「だってあとでメグにバレて怒られたらむかつくし。てかさー聞いてよ。昨日さー…」
ころころ表情の変わる咲はおしゃべりで、私が目を付けられていることも私の感謝もあっさりと流し、昨夜喧嘩したらしいお父さんへの愚痴をこぼし始める。あまりのひどい言い草に「かわいそうだよ」と返しながらも笑ってしまった。