柊くんは私のことが好きらしい


バカバカ私のバカ! 素早く拾い集めたあと、ざっと地面を見回し何も残っていないことを確認する。そのとき、顔を上げなきゃよかったのに。


つい、購買部の列だと思ったら……見られていたことを、見てしまった。


しゃがみこんで何してるんだろう、って。そんな顔した彼と、目が合って。思い切り逸らしたあとにまた、後悔する。


即刻逃げたい! 今はとにかく、1秒でも早く!


俊敏に立ち上がった私は先輩に小銭を手渡す。


「全部ありますか!? 本当にすみませんでした!」

「ううん。こっちもごめん。拾ってくれてありがとー」


先輩に頭を下げ、走り出したくて進めた1歩を寸でのところで小さくした。


全力疾走は逆にかっこわるいし目立つ……!


「てか今のあれだよね。メグに告られた子」

「はっ!? マジで!? 今の!?」


ヒィイイイイイイ!!! もう目立つとかどうでもいい! 離れた場所で待っていた咲のもとへ駆け寄る。


「咲、咲っ。戻ろう……!」

「ちょっと嘘でしょもう1回! てかどれ!? すでに顔まったく思い出せないんだけど!」


咲の腕を抱きつくように掴めば、そんな言葉が背中を殴りつける。冗談でも、彼女を名乗ることなんてできない私にはお似合いな現実。


「……戻ろう」


声は小さかったかもしれないけど、掴む力を強めた私に、咲は何も言わず歩き出してくれた。
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