柊くんは私のことが好きらしい


「やー。見てあれ。かわいいのいるーっ」

「メグね。ほんと顔綺麗すぎだわ」


昼休みに入ったばかりの食堂付近は騒がしいというのに、耳に入ってくるのはそんな会話ばかり。


「えー。綺麗っていうなら、小鷹(おだか)くんのが上でしょ」

「わかるわかる! 落ち着いてるよねー。うちのクラスの男子と交換してほしいわ」


自販機の近くで、先輩たちは後輩のことで盛り上がっていた。それを耳にしながら、購買の列に並んでいる1年グループを盗み見る。


クラスメイトでもある男子が5人。女子が2人。増えたり減ったりするけど、よく一緒にいる顔ぶれだ。


その中でも人気なのは、“メグ”と“小鷹くん”で間違いない。入学して数日も経たぬうちに、クラスの女子がツートップと名付けていた。


……そこにいるだけで、きらきらしてる。


「でも観賞用でしょー。あれとくっつく女子、想像できなくない?」

「できるよ。彼女とかアタシ以外想像できないっしょ」

「何バカ言ってんの! ありえねーっ」


けたけたと楽し気な雰囲気に、ゴトン、と重い音が重なる。買ったばかりのミルクティーを取り出し、自販機の列から抜けた。


い、いたたまれない……。

早く教室へ戻りたい気持ちが大きく、俯いていたのがまずかった。うしろに並んでいた先輩の肩とぶつかり、そのはずみで相手が小銭を落としてしまう。


「ご、ごめんなさっ、すみません!」

「あはは。いーよいーよ。大丈夫だから」


慌てて小銭を拾い上げようとしたら自分のミルクティーまで落として笑われてしまい、今すぐ走り去りたい気持ちを堪えた。
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