猪の目の酸化還元反応
「(だけど、僕も貸してもらおう。)」



賞には落選してしまって記念にと雉歳が創の両親に頼んで一冊だけ製本してもらったという、この面白そうな推理小説を。



「欣箸が絶賛していたぞ、旦那の本。」


「そうですか。それは良かったです。」



猶助は休憩スペースに雉歳を見つけた。



「指輪……」


「え、ああ…。説明がややこしいと思っていたんで外していたんですけど、もうその必要も無くなったのでつけることにしたんです。」



ちらりと見た左手の薬指には、きっと入り込めない。



「指輪は給料3ヶ月分が普通だなんて張り切って、私には勿体無いと言ったんですけど。」



大きい大きい誰もが羨む様なきらびやかな箱より、


小さい小さい誰もが見落としそうな色の無い箱に、



雉歳の幸福はあった。



「想う気持ちだけは、消えてくれないんですよね。いつまでたっても。」



声が、感触が、温もりが、肉体が、


全て跡形もなく無くなっても。



「すみません、こんな話…」


「いや、別に。気にするな。」



涙ぐんでいるのを必死で隠して平静を装っているように感じて、猶助は精一杯の無関心を偽った。
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