mariage~酒と肴、それから恋~《5》
「…妻は、再婚していいよって言い遺して逝ったけど、俺には幸せになる資格はないってずっと思ってた。

何より、妻を亡くした日のことは今でも忘れられない。あの喪失感は、今でも怖い。

そんな俺と一緒にいたら、月子には嫌な思いをさせると思う」

語尾が悔しげに震えていた。


また泣きそうになって、ぎゅっと目をつぶり、堪えながら首を振った。

言いたくないだろうことを告げようとしてくれてる。


その想いをきちんと受け止める。

私はその資格をようやく手に入れたんだから。


「また先に亡くすことになったらと思うと怖じ気づいて、ずっと踏み出す勇気が持てなかった。

だけど…、月子を手離す方がよっぽど辛いって気づいたんだ」

辛いことが起こるかもしれないけど、離れるより、寄り添う方を選びたい。


成海さんの決心が、胸の奥に染み入る。


大丈夫だよ。無理して忘れなくていいよ。

だから、一緒にいさせて…。


言葉にできない精一杯の愛を込めて、成海さんを両腕で強く抱き締めた。


「…10年ものの梅酒、やっぱり今開けるのは勿体ないからもう少し寝かせてみようかな?」

そう私が呟くと、


「そうしよう。定年祝いで乾杯しよう」

頭の上から、愛しい低い声が降ってくる。
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