mariage~酒と肴、それから恋~《5》
びっくりしてベンチから落ちそうになった私の腕を成海さんは慌てて掴んで支えた。

「驚きすぎ」


「だ、だって、本社に戻る気ないって、言ってたのに…」


「うん。…でも、そろそろ頑張らなきゃ、月子に愛想尽かされちゃうからさ」


成海さんは情けない顔して笑い、私を抱き寄せた。


「待たせてごめんな」


成海さんの腕の中に体がうずまる。


体からも、燻製の匂いがする。

切ないような懐かしいような温かな匂い。


まわした手のひらで、匂いで、成海さんを実感する。


「…妻が、療養中のことなんだけどさ…」

私の頭に頬を寄せたまま、意を決したように、ポツリポツリと語り出した。

亡くなった奥さんのこと。


「…はい」

言葉を遮らないように最小限の相づちを打つ。


「俺のことを仕事人間だって言ってくる奴等もいるけど、仕事に逃げてたんだ。勿論、仕事は好きだったけど。

妻の現実を受け入れるのが辛くて、仕事をしてる方が楽だったなんて、最低だよ」


成海さんの口から語られたのは初めてだった。

どこか心許ない声を聞き逃さないように耳をすます。
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