恋愛セラピー
「ごめんなさい。岩田先生とは、お付き合いできません」
しばらくの間の後、頭を下げたままの私の頭上で岩田先生がため息をついた。
「……うん、分かってたよ。俺もK大附属の知り合いに古賀ちゃんの彼の噂、たしかめたんだ。全部嘘っぱちだってね。将来有望で、優秀なのに気取らない人懐っこい性格で、他科の先生にもかわいがられてるって聞いた。吉田にも謝られて、ご愁傷様って手、合わせられたわ」
そうなんだ。噂、本当に嘘だったんだ。疑っていたわけじゃないけど第三者の口からそれを聞くとなんだかホッとする。
「顔、上げてよ」
下げていた視線を上に戻すと、穏やかな笑みを浮かべた岩田先生と目が合った。
「分かってたから。古賀ちゃん、めちゃくちゃかわいくなったからね。そいつのおかげなんだろうなって。だけど、悪い噂があるって聞いたからさ、そんな男に渡したくないと思ったし、付け入る隙もあるかなって、ダメ元でね。だけどそんないい男じゃあ、太刀打ちできないわ」
肩をすくめた岩田先生が、私の肩をぽんっと叩いて階段を降りていく。
「明日からまた、同僚としてよろしくね。気まずくなるのは嫌だから。また、俺の軽口に付き合ってね」
「岩田先生……ありがとうございます」
好きになってくれて、ありがとう。そんな想いをこめてお礼を言うと、岩田先生は軽く手を上げてくれた。