恋愛セラピー
ラベンダーの思い出、ゼラニウムの目覚め
自然と背筋の伸びる、ピンと張りつめた空気。それに似合わない陽気なBGM。この曲を聞くのは今日、何度目になるだろう。
「バイクリル、二ーゼロちょうだい」
「はい」
準備をしておいたそれを手渡して、少しだけホッとする。もうすぐだ。もうすぐ、この緊張から解放される。
「ステープラー」
「はい」
パチン、パチンと軽快なBGMと混じって響いていた音が、止まった。
「よし、無事終了! 長丁場、お疲れ様でした!」
その声に張りつめていた空気が緩んで、肩から力が抜ける。時計を見ると、この場所に立ってから十時間が経っていた。
「お疲れ様でした」
長丁場を共に戦っていた先生たちに労いの言葉をかける。大手術を無事に終えて、意気揚々と手術室を出て行く後ろ姿を見送ってから、大きく息を吐いた。
つけていた手袋を外してゴミ箱に投げ捨てて、血液のついた使い捨ての滅菌ガウンを脱いで、それも丸めてゴミ箱に投げ入れる。
はあっと息をついた私の耳にピッピッという規則正しい機械音が聞こえてくる。
それはまだ手術台で眠っている患者さんの心拍の音だ。
その音が患者さんの容態が安定していることを私に知らせてくれて、なんとなくホッとする。