夏の亡骸
夏の亡骸





狂ったようにのたうち回る蝉時雨が、ぽとり、ぽとりと地面に落ちた。儚い命を嘆く暇もないほどに、夏という季節は香りも残さず、足早に過ぎ去ってしまった。

待ち遠しかったはずの夏休みも気付けば残り一日になって、すっかり忘れてしまっていた読書感想文の原稿用紙と一緒に、勉強机の隅っこに転がっている。海水浴だ花火大会だと楽しみにしていたことは沢山あったはずなのに、過ぎてしまった今では遠く向こうで手を振る思い出になってしまった。

母親に怪訝な顔をされながら、やっとの思いで買ってもらった藍色の浴衣の朝顔を思い出して、どうせならもう一度くらい袖を通しておけばよかったと、明日からまた始まる退屈な学校生活への不満も混ぜ込みながら、ちいさくため息をついた。

夏が、終わってゆく。

明日になればきっとクラスの女子達が、休みの間にできた彼氏の話題なんかできゃあきゃあと騒ぐ声を聞きながら、つまらない授業をつまらなくこなして、なんとなく入部した部活になんとなく打ち込んで、そうやって、夏が来る前とおんなじように、毎日を繰り返すのだ。

何が変わるわけでもない、何かになれるわけでもない。それなのにどうして夏というのは、訪れる前にはあんなにも、胸をざわつかせていたのだろう。終わってしまえばこんなにも、呆気ないものなのに。
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