夏の亡骸
何も変わっていないはずなのに、何かが変わってしまったような気がするのはなぜだろう。
去年の夏も同じような夏休みを、同じように過ごしていたはずなのに。海へ行ったのも、浴衣を着て花火を見に行ったのも、今年が初めてではないはずなのに、何がどうして、こんなにも違うのだろう。
香りだろうか、色だろうか。今年は去年より、少し夏が短かったから。去年よりもほんの少し暑かったから。
あるいは、そのすべて、僕の隣にあの人がいたからだろうか。
「綺麗な字を書くんだね」
高くも低くもない声で、そう言った。その一言で、あの人は夏を塗り替えてしまった。
冷房の効いた図書館の、古びたカウンターの隅っこで、貸出カードに走らされた僕の名前をそっと撫でながら、あの人はにっこり笑って、僕を見た。
初恋を、掻っ攫っていった。