現場系男子にご用心!?【長編改訂版】
持っていた部品を落としそうになって、そのときハッと我に返った。
幸い部品を地面に落とすことはなかったが、部品を持つ手は小刻みに震えている。

岡田さんが海外に行くなんて、そんなこと一切言ってくれなかった。
私の知らないうちに、そんな話が岡田さんにあったなんて……。

「半年くらい前に打診は来ていたみたいなんだが、十二月の中頃に正式に決まったらしい。岡田ちゃんいい奴だったんだがなぁ。まあこんなところで終わるような男でもないし、仕方ないな」

「そう……ですか」

「俺から知らせてしまったみたいで悪いことしたな……。でもいずれは分かることだし、あとでゆっくり岡田ちゃんと話し合えよ」

「はい……」

それからどうやって昼まで仕事をしていたのか、あまり覚えていなくて。
気付いたら昼休みのベルが鳴っていた。

片付けもそこそこに、私は工場の外へ出る。
人気のない場所に行き、岡田さんに電話を掛けた。

コール音が耳にやたらと響く。
そして、岡田さんが出るまでの時間がやたらと長く感じられた。


『……もしもし、どうした?里緒奈』

「仕事中にゴメン。今日どうしても話したいことがあるの。私の家に来てもらってもいいかな?」

『え?……あ、ああ。分かった。帰り八時過ぎると思うけどいいかな』

「うん、大丈夫。帰ってくるまで待ってる」

岡田さんと話しているときの声は、少し震えていたかもしれない。

それは岡田さんも同じで、「話がある」と言った後、息を飲むようなそんな音が聞こえていた。
切れたあとも、じっと携帯のディスプレイを見つめながら、私はずっと考えていた。


岡田さんが春先までには結婚したいと言った意味が、今よく分かった。
タイに行くから、だからそれまでに私と結婚したかったんだ。


だって、あっちに行ったら早々会えないんだから。
今みたいに、気軽に会って話してなんて、出来なくなるんだもの。

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