正しい男の選び方
「また始まった。君は食べなくていいからちょっと黙ってろよ。雰囲気が悪くなる」
「……分かってるわよ。ああ、もう! だから来たくなかったのよ」
声を張り上げようとした時。
浩平がふわりと葉子を包んだ。
「……来てくれてありがとう。嬉しいよ」
バニラの甘い香りにつつまれた。かすかに七面鳥の肉の匂いもする。
浩平に抱きしめられたまま葉子は呟いた。
「わかってるの……自分でも怒ったり気にしたりするようなことじゃないって。
でも、どうしても、肉を食べている人を見てると腹立たしい気持ちになってしまうの」
「うん、知ってる。葉子が腹を立ててるのはよーくわかってるつもり。君は強情でガンコだもんなァ。
後から、オレがいくらでも文句聞いてやるから、ちょっとの間、機嫌良くテーブルに着いてくれないかな?」
トクン、トクン、トクン……
浩平の心臓の音が伝わってくる。
目をつぶっていると、気持ちが落ち着いてきた。
「……ゴメン。子どもみたいに駄々こねて」
「いつものことだからね」
浩平は笑いながら、葉子の頭をコンとノックするように軽くたたいた。