正しい男の選び方

隣りの政好が小声でささやく。

「食べとけば? これ以上突っ込まれても面倒なだけだろ?」
「……」

何でこんなところに来たんだろう。
私、何か悪いこと、してるんだろうか?
さすがに凹んでいたら、浩平から声がかかった。

「そっち、足りてる?」
「え? うん、大丈夫」

葉子が答えると、浩平は今度はその女の子に向かって話しかけた。

「ナナちゃん、知ってる? このお姉ちゃんね、本当はお肉大好きなんだよ」

「えー、好きなの?」

「そう。大好きだけど食べないんだって。どうしてか知ってる?」

ナナちゃんは首を横にふる。

「お姉ちゃんが食べなければ、ナナちゃんみたいにお肉を食べなきゃいけない子どもがもっとお肉を食べられるでしょ。
 そういう人たちのためにとっといてるんだって。えらいよねー、お姉ちゃん」

ナナちゃんは浩平に言われたことを理解しようとして首を傾げる。

「そうなのー? お姉ちゃん我慢してるの?」
「……うん、ちょっとだけだけどね。だからナナちゃんは食べてくれるかなあ?」
「……しょうがないなぁ……」

ナナちゃんはブツブツ言いながらお肉を小さく小さく切って少しずつ口に入れた。

浩平がそれをみてナナちゃんを褒める。

「すごいねー、ナナちゃん。それ、全部食べ終わったら、後からこっそりいいものあげるからね。ママには内緒だよ」

そう言ってナナちゃんにウィンクをしてみせる。もう浩平にメロメロだった。
ナナちゃんはいくらか誇らしげに一生懸命お肉を食べていた。

隣りのお母さんも苦笑している。が、機嫌良く一生懸命食べるナナちゃんに文句が出るはずもなかった。

葉子は、女たらしの真髄を見たような気がした。


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