正しい男の選び方

浩平はワインを片手に鉄製のフライパンを温める。
煙がもうもうと出て来たところで、バターを流し込み、ステーキを焼き始めた。
ハミングしながら楽しそうに肉を焼いている。

「食べてくれる人がいて良かったよ」

浩平は陽気な声で葉子に話しかけた。

「悪いんだけど、私、ステーキは食べないわよ」

むっつりした声を出した。
しかし、浩平は相変わらず朗らかだ。

「遠慮は無用だよ。そこにあるおつまみ、食べながら焼きあがるの待っててよ」

浩平は機嫌良く答えた。
葉子はもう一度、確認した。

「ありがとう。でも、ステーキは食べられないの、私、ベジタリアンだから」

へ? という顔をして浩平は葉子を見返した。
そのまま、一分以上葉子の顔をじーっと見つめていただろうか。

葉子の言葉がアラビア語にでも聞こえたのに違いない。森の中で宇宙人にでも遭遇したかのような顔をしている。

当惑と混乱。浩平は明らかに返事に詰まっていた。

その間にも、フライパンにのった極上の肉がじゅうじゅうと音をたてて焼き上がっていく。
香ばしい香りがキッチンに充満する。

狼狽した顔のまま、浩平は呟き返した。

「……ベジタリアン? 肉を食べないというかいうアレ?」
「そ。肉を食べないとかいうアレ」

葉子は大きく頷いた。浩平はまだ納得したような顔をしない。

「ステーキも?」
「私は、死体は食べない主義なの」
「死体って……」

浩平はそのまま呆気にとられた顔をした。しばらくして浩平は急にクククと笑い出す。


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