スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―


身軽に立ち上がった俊くんは厨房に入っていって、白いビニール袋を手に、すぐに引き返してきた。

相変わらず手際がいい。

しかも、らみちゃんのぶんまで気にしてくれてたなんて、俊くんはやっぱり優しい。


と、いきなり、俊くんがパッと表戸のほうを振り向いた。

その動きに引かれて、わたしも表戸のすりガラスの向こうに人影があるのを見た。


ザワッと、全身に鳥肌が立った。


背の高いスーツ姿の男がそこにいる。

すりガラス越しのぼやけた輪郭でも、十分にわかる。

加納に間違いない。


加納が戸を開けようとしてガタッと音を鳴らすけど、すでに鍵がかかっている。

かぶりを振った加納は、すりガラスをコンコンと叩いた。


俊くんがわたしたちの靴を座敷の縁の奥へと押し込んで、ひそめた声で告げた。


「隠れててください。おれが追い返しますから」


わたしはガクンとうなずいて、座敷のいちばん奥へ這っていった。

頼利さんは、隠れるのを嫌がるように顔をしかめたけど、美香子先生がたしなめる。


「上條さんも顔を見られているでしょう? 隠れていないとダメです」


わたしは膝を抱えた。

カチリと鍵を開ける音に、カラカラと戸を開ける音が続く。


今日はもう店じまいなんですが、と俊くんが言った。

とっさに愛想のよさを装えるのは、さすがだ。


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