スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―


「なあ、先生」


「何ですか?」


いつの間にか、わたしの家の前だった。

丁寧な運転の心地よい振動が止んで、少し寂しく感じる。


「おれがあんたを車に乗せた理由、送り狼になるためだって言ったらどうする?」


「え? あ、あの、らみちゃんのお迎え、行く途中、なんでしょ?」


「それも嘘っつったら?」


「ちょ、そ、そんな、ダメですよっ。上條さんは、わたしの教え子の保護者さんなんですよ! 教師と保護者って、絶対そんなのあり得ないです!」


頼利さんがわたしのほうに軽く体を傾けて、左腕を助手席のシートに掛けた。

その腕がわたしの肩に触れそうで、息が止まる。

頼利さんの切れ長な目に留め付けられて、頭のてっぺんから足の先まで、熱い震えが走った。


「保護者だからダメ、か。じゃあ、夏までの辛抱だな」


ほどよい厚みの唇が、笑った形のまま、わたしに近付く。

思わずギュッと目を閉じたら、まぶたの上に短いキスをされた。


頼利さんの体温が一際、わたしに近付く。

抱きしめられるのかと思った。そうじゃなかった。

カタンと機能的な音がして、助手席のドアが開く。

わたしが目を開けるのと、右腕を伸ばしてドアを開けた頼利さんが運転席に引っ込むのと、ゆるゆるとして同時だった。


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