スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―


「今からそちらに向かいます。きちんと説明するので、わたしの話、聞いてください」


〈……いいだろう。待っているから、気を付けて来るといい〉


感情を押し殺したような声だった。

逆上するんじゃないかと、急に不安が湧き起こったけど、今さら後には引けない。


わたしは電話を切った。

頼利さんが眉間にしわを寄せている。


「大丈夫なのか?」


「今ならちゃんと話せます。加納に絶対できないって言われてたジャズピアノ、わたしもやればできそうだって、その手応えが自信になりました。今のわたしは、加納も怖くないです」


「だったらいいんだが」


「それでですね、上條さん、お願いがあります。一緒について来てください。一緒に来て……わたしの恋人役、演じてもらえませんか?」


言いながらメチャクチャ恥ずかしくなったけど、加納のアプローチを断る最強の手段がこれだという気がする。

恋人がいるから、あなたとは付き合えません、って。


目を見張った頼利さんが、楽しそうに笑い出した。

声を殺して、くつくつと、肩を震わせている。


「マジで言ってんのか? ガラの悪いおれが相手でいいのかよ?」


「だって、ほかにいませんし」


「消去法か。ひっでぇ」


< 205 / 240 >

この作品をシェア

pagetop