東と西の恋

古傷



その夜、いつものようにパトロールをした後私は、あるところに寄った。
それは私が昔迷子になった時に見つけたお気に入りの場所。

広場のようになっていて四季の木や草花が植えてある。
その中で一際目立つ大樹がある。
それは美しく咲く桜の大樹。

昔から何があるとここで舞っていた。
周りには誰もおらず、懐から扇を出し桜の樹の下で舞う。
ただひたすら無心に舞う。

気の済むまで舞った頃、東雲彰がいた。

「何覗き見してんのよ。」

「いや〜 ええもん見さしてもらったわ。
月華ちゃん舞踊れるんやな 思わず見惚れてしもうたわ。」

「ハイハイ そーですね。」

相変わらずお気楽過ぎて呆れてくる。

「何しに来たの。」

「ここ、偉い綺麗やなぁ。」

質問に対して答えが違うっ!

「綺麗な桜やけど……華、この前の華咲いとるんやな。」

そう、ここには桜の木や草木の他にも咲いている華がある。
月華だ。

「結界、張っとるんやな 周りに誰の気配もしないし何よりも結界の気配がする。」

「やっぱり気づいてんだ。 んで、もう一回聞くけど何しに来たの。」

「…ちょっと月華ちゃんが気になってな。」

私?何故?

「別れ際えらい顔しとったから。」

そこまで表情に出してたのか私。

「だからちょっと気になってな。」

「………。」


未だ鮮明に覚えているあの記憶が蘇る。
古い記憶だけど鮮やかに覚えている。
私の心に深い傷を残したあの事件。

「……今から話すことは私の独り言だから気にしないで。

私、昔小さい時ここの辺りで迷子になったの。
その頃はまだ今の力に目覚めてなくて変装なんかもしてなかったから見た目のせいで虐めに遭ってたの。
と言っても全く相手にしてなかったし気にもしてなかったから別にいいんだけどその日特に嫌がらせがひどくてウザくて逃げてたらここがどこかわかんなくなって、いつの間にかここにいたの。
この大きな桜の樹があって、樹の下に一人その時の私と同じくらいの女の子がいた。
名前は蘭。
蘭と私はすぐ仲良くなって蘭に会いに毎日ここに来たわ。
いつも蘭も一人だったけど何も気にしなかった。
蘭といるととても幸せで私にとって初めての友達だった。
だけど、幸せな時間は続かなかった。
私を虐めてた男の子がここにいたの。
後をつけてたみたいでその子はここを滅茶苦茶に荒らした。
ここには蘭もいて悲しい顔をしていた。
蘭にそんな顔させたくなくて必死に止めようとして今までは暴力は無かったんだけど男の子が初めて私を殴ったの。
それを見た蘭は怒ったわ。
黒い靄が蘭の体の周りに出てきて目は赤くなり表情はどんどん恐ろしい物になったわ
そこで男の子は初めて蘭の存在に気づいたの。
酷く驚いていたわ。
そこで初めて気づいたの。
蘭が妖だって事が。
男の子はすぐ逃げていったけど蘭の怒りは収まらなかった。
必死に名前を呼ぶけれど蘭はもう怒りに飲み込まれて我を忘れていた。
変わり果てた蘭を見てすごく悲しかった。
その時私の力が目覚めた。
自分でもよく分かんなくて怖くて、その時私のお父さんと母がここに来たの。
私の力の目覚めに気づいて大急ぎてここに来たみたい。
蘭を見てすぐに祓おうとして止めようとしたけどダメだった。
蘭は消えてく前、理性が戻り私にこう言った。」

まだ覚えてるあの言葉。

「月華、一緒に遊んでくれてありがとう。楽しかったよ。私、

























すごく幸せだった。
ありがとう。」

と笑って消えていった。

「こんな事は陰陽師をやってたら幾度もある。慣れなきゃいけないの。
だけど今日のあの女の人の最後の言葉が蘭と重なったの」

東雲を見るとじっと私を見て

「なんで慣れなあかんの?
悲しい時は泣いたらええやん。」

「え?」

「感情持ってんやから押さえ込まんくたってええ」

と言って私を優しく抱きしめる。

「何も見えんし聞こえんから。」

全くこいつ理由つけてるけどセクハラしすぎ。

「東雲のくせにムカつく……」

今まで我慢していた涙がボロボロと出てくる。




私は暫く東雲の中で泣き続けた。





※作者コメント
欄消滅の後、もう二度と荒らされないように蘭との思い出の地を守るため結界を張った

と、いう事になっております。


毎度毎度亀更新ですみません
でも受験が終わる三月下旬までお待ちください





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