ダブル王子さまにはご注意を!








「……帰りたい」

「あら、真由理ちゃん。もうお疲れモード? ダメよお、あと8時間頑張ってくれなきゃ」


働くお店のカウンターでカラカラ笑うのは、パートの青山さん。お店で一番のお喋り好きで、ちょいとボス的存在。


精神的に疲労困憊な私のぐでり具合が解るはずもなく、ポンポンと背中を叩いてきた。


「昨日の売り上げのおかげで店長もご機嫌なんだから、ほら。笑顔、笑顔! 真由理ちゃんも笑うとカワイイんだから自信持ちなさい。きっとお客さんが見初めてくれるって」


見初めるって……言い方古いですよ、青山さん。


(それより昨日の客にラチられて強引に住まわされてますよ……なんて言えませんがな)


同居を約束させられた後、まさかと思ってたのに従業員通用口に待ち伏せされ、一緒にアパートに帰って当面の荷物を纏めてマンションに連れ去られたんだ……。


10分で支度してと言われて慌てて詰めたから、咄嗟に必要最低限のものしか選べなかった。


で。20畳はあろうマンションの広い部屋にはふかふかな白い絨毯が敷かれていて、カーテン付きの天蓋ベッドに猫足の白い家具に巨大なドレッサーにシャンデリア……どこのお姫さまかと言いたくなる部屋で、落ち着かなくてソファの前で寝たのは内緒。


八畳一間で不自由なかった小市民な干物女には、目が潰れそうなほどに場違いな部屋だった。
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