イジワルな彼に今日も狙われているんです。
ふむ、と内心で勝手に分析した俺は、その後も警戒心の強い野生の小動物を相手にする感覚で接触を試みることにする。

外の空気を吸いに来たという彼女は、受け答えもやっぱりそこらの女子と変わらない普通な感じだ。見た目のイメージから電波系スイーツ女子なのだろうと勝手に推測していた俺は、自分の予想が外れていたことに多少面食らう。


そこでふと、今日の日中外勤に出ていたときに路上で配っていた新商品の棒付きキャンディーの存在を思い出し、ものは試しと木下さんを手招きする。

彼女は若干不思議そうな顔をしつつもとことこ近付いて来て、俺の傍らに立った。


……あ。そういえば、半径5メートル以内。

今になって平野に言われた理不尽なセリフを思い出したけど、すぐにどうでもよくなる。

ま、いっか。これは手ぇ出してるのとは違うし。つーかどうせ相手は平野だし。


そう結論づけて木下さんにジャケットから取り出したアメを渡す。

すると彼女は見る間に表情を明るくし、満面の笑みで俺を見上げてきた。



「あっ、ありがとうございます! うれしいです!」

「そりゃ良かった。甘いの好き?」

「はい! 大好きですー!」



さっきまでのおとなしさはどこへやら。木下さんはまるで子どものように無邪気な笑顔で、溢れんばかりのよろこびを表現している。

けれどそれは束の間のこと。アメひとつで簡単に心を開いてしまった自分の単純さに気付いて恥じたのか、打って変わって今度はバツが悪そうにちらりと俺を見上げて来た。


……ぶっ、百面相。おもしれぇ。



「さっすが俺、マーケティング部の噂の木下さん相手に、簡単に餌付け成功」

「餌付……っ?! う、噂って、なんですか」

「ん? いっくらデートに誘ってもかわいい困り顔でやんわりかつ一分の隙もなく挑んだ男全員撃沈させる、難攻不落のマーケティング部の華って」
< 104 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop