イジワルな彼に今日も狙われているんです。
先日平野から聞いた情報をわざと芝居がかった調子で素直に教えれば、その話が不本意らしい彼女は嫌そうに軽く顔をしかめた。

へー、ゆるふわ女子でもこういう顔するんだ。へー。


その後、なんやかんやで木下さんと一緒に飲み会を抜けることになり。

並んで駅に向かっている途中、ちょこまか小さい歩幅で俺の隣りを歩きつつ「尾形さんも抜けて来ちゃってよかったんですか?」って訊かれたから「別にあんたを庇うためでも送るためでもないから気にすんなよ」って答えたら、笑顔で若干キレられた。

おもしれぇ。どうせ『私のために尾形さんは飲み会を抜けてくれたんだわ……!』とか思ってんのかなとか俺が考えてたの、察したんだろうなこのコ。

でもそれで怯まず嫌味を言ってくるって、やっぱいろいろ予想外だわ木下 さなえ。


駅までの道中他愛ない話をしているうち、どうやら俺たちには意外な共通点があることがわかった。

お互い少し前、ずっと片思いしていた相手に振られてしまった。そんな理由からふざけ半分で”失恋同盟“というよくわからない同盟を組むことになり、俺たちは酔いも手伝ってか気付けばすっかり打ち解けていた。



「そういえば木下さんは、少し前からすっげぇやたらと流行ったあの映画観た? なんかアニメの中身入れ替わる系の」

「あー私、あれ3回観に行きましたよ」

「マジで? そんなに? えっあえての流行に対する反骨精神で観なかった俺しくった??」



俺のくだらない話にもくすくす笑う木下さんの様子を眺めていると、不意に先日同僚が口酸っぱく言っていたセリフを思い出す。



『とりあえず、俺が狙ってるコには尾形おまえ絶対手ぇ出すなよ!?』



……いや、出してないし。

つーか最近失恋しました~って話聞いてんのに、出そうとも思わんし。

だってこのコどうせ、その相手のこと、まだすきなんだろ?


なんとなぁく今さら同僚に対して後ろめたい気持ちになってしまった俺は、マフラーを直しつつ夜空に目を向ける。

瞬間、冷たい風に鼻がムズムズして、ひとつくしゃみをした。

木下さんがハッとしたような顔で俺を見上げてくる。
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