イジワルな彼に今日も狙われているんです。
「へぇ、奇遇だな」



なぜか笑いを含んだそのセリフが予想外だったから、つい顔を上げて声の持ち主を見つめてしまった。

尾形さんは、やっぱり口の端を緩く持ち上げて。まるでおもしろいものでも見るかのようにその瞳を光らせながら、私のことを見下ろしている。



「俺も、ちょうど4ヶ月くらい前に振られた。付き合ってたとかじゃなく、片思いしてたヤツに」

「え……」

「しかも俺なんて、相手幼なじみだからな? ガキの頃からこじらせてた年季入った片思い、まっさかこのタイミングで終了するとは思わなかったわー」



なんでもないような顔をして。前に向き直りながらおどけて話してみせる尾形さんの横顔を、ぽかんと見つめた。


イケメンでどうやら優秀で、社内でも人気がある尾形さん。だけどいくらまわりの女子社員たちがアプローチしても、暖簾に腕押しでのらりくらりとかわされちゃうって、噂で聞いたことがあった。

……それって、すきな人がいたからなんだ。でも、その相手にはもう振られてしまってて。

え、あの、でも、それって……そんなあっさり、たいして親しくもない私なんかに話しちゃっていいことなの?



「あーあ、同じ時期に揃って失恋とか残念だな俺ら。せっかくだしふたりで失恋同盟でも組むか」

「しつ……な、んですか、それ」

「ふたりしかいないのはともかく、代表者は俺だな。振られたの先だし、たぶん俺のが内容的に悲惨だし」

「そ、そんなわざわざ自分で傷口に塩塗るようなこと言わなくても……」



呆然としつつもなんとか私がそう言えば、通りかかった車のヘッドライトに照らされた尾形さんが白い歯を覗かせて笑う。

そのとき、気が付いた。たぶん尾形さんは暗い表情になった私を気遣って、わざと自身の失恋話を持ち出したんだ。

自分だって、痛いくせに。無意識だろうけど眉間にシワが寄っちゃうくらい、まだ引きずってるくせに。
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