イジワルな彼に今日も狙われているんです。
なんだ、この人。私に散々言っといて、意外なのは自分の方じゃないか。

尾形さんって、意外と……やさしい人、なんだ。



「……仕方ないですね。失恋同盟上級代表の座は尾形さんに譲って差し上げます」



自然と笑みを浮かべつつ、ただ声音はわざと偉そうな口調で、私はそう言った。

不意をつかれたのか、尾形さんが一瞬きょとんと目をまたたかせる。けれどすぐにまた、にやりと意地悪そうな顔をした。



「それはどうも、光栄です。あ、ちゃんと会費は定期的に徴収するんでよろしく」

「はい? えっ、ちょっとそれは話し合いの余地が……っ」

「聞きませーん。決定事項です~」



焦る私の声を、尾形さんはいっそ清々しいほど無慈悲に聞き流す。

冷えた夜風に白い息を流して笑う彼を見上げる今の私は、きっととても悔しそうな表情をしているに違いない。

だけど、ふと今の状況を冷静に鑑みて。今日まで一度も話したことがなかった男の人とこうして他愛ないやり取りをしながら普通に並んで歩いてる自分がなんだか不思議で、少し可笑しく思えてきて。知らずうちに私の頬も緩んでしまっていた。


ついさっきまでは、顔と名前くらいしか知らなかった相手。

けれどもどうやら、私とこの人は不本意な共通点があるらしい。


こうしてこの日私たちは、おふざけ半分でなんとも情けない名前の同盟を組むに至ったのだ。
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