イジワルな彼に今日も狙われているんです。
おかしな話だ。尾形さんといると、どんどん自分が悪い女になっていく気がする。

……いや、たぶん違う。もともと、自分の中にひそんでる悪いところが──どうしてか表に、出て来てしまうんだ。

私の、弱くて、汚い部分が。



「……尾形さん」



立ち止まりながら名前を呼んだ。気付いた彼も、同じように足を止めて私を振り返る。



「木下? どうした?」



きょとんとした様子で、私のことを見つめるヘーゼル色の瞳。

今、この目を独り占めしたいと思ってしまっている私は、たぶんすごく馬鹿なんだと思う。

自分でもわかっていながら、それでも止められずに、私は口を開く。



「……お店、行きません」

「え?」

「私、尾形さんの家に、行きたいです」



今度こそ本気で驚いたように、彼が息を呑むのがわかった。

私はただひたすら、視線をそらさず尾形さんをじっと見据える。


強くて、かっこよくて、やさしい尾形さん。

こんな人に愛してもらえる女性は、きっと、幸せ者だ。

すみれさんは、どうして……どうしてこの人を、選ばなかったのだろう。


尾形さんは私の言葉をわざと笑い飛ばそうとして失敗したような、そんなぎこちなく引きつった表情をしている。



「なに……言って。木下おまえそれ、どういう意味かわかって」

「わかってますよ。こんな遅い時間に、女が男の人の部屋に上がる意味なんて──何が起こったって文句言えないことなんて、ちゃんと、わかってます」



彼が想いを寄せる女性と、その恋人と別れてから。私はずっと、馬鹿なことを考えている。


……尾形さん。なんとなく、って、理由でもいいから。

キス、とか。私のこと、触って、くれないかなあ。

たとえ一時のことでも──恋人、みたいに。私のこと、扱ってくれないかなあ。

すみれさんに、向けていたみたいに。宝物を見るみたいな瞳を、私にも、向けてくれないかなあ。
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