イジワルな彼に今日も狙われているんです。
たぶん、尾形さんも気付いてる。私が気付いてしまったことに、気付いている。

それでも彼は、そのことに関して言及することはなく。再び歩き出した尾形さんのあとを、私も黙って追いかけた。



「あー、何の話だったっけ? ああそうだ、これから行くとこ【むつみ屋】って店なんだけど、魚とたまご焼きが美味くてさぁ」



尾形さんの、少しだけ後ろ。斜め後ろからその横顔を見上げながら、私はとても、馬鹿なことを考えていた。



「……お似合いでしたね、あのふたり」



ぽつりと、まるで小雨が降るみたいに静かにつぶやく。

小さな声だったけど、それでも尾形さんの耳にはきちんと届いたらしい。彼は一瞬驚いたような表情で私を振り返って、それでもすぐ、その端整な顔に少しいびつな笑みを浮かべた。



「うん、……そうだな」



……なんで、笑うの。

なんで、そんな──そんな、やさしい表情で。



「……今の、笑うとこじゃないです。だって私、嫌味を言ったんですよ」

「へぇ。そっか」



素直に告げた私に、それでも尾形さんの声はどこまでも穏やかだ。

私の言葉なんてなんとも思っていない様子で、彼は再び前を向く。


なんで──……なんでなの。なんで尾形さん、私に怒らないの。

彼の、1番大事なところに触れる私を。どうして、怒ってくれないの。
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