イジワルな彼に今日も狙われているんです。
「(……あんなこと、考えちゃうなんて……もしかして私、尾形さんのこと、)」



昨夜からもう何度も自問しかけたその問いを、ぶんぶんかぶりを振ることで追い出す。

まわりを歩く人たちがぎょっとしたように注目してくるのがわかったけど、今の私にその視線を気にするほどの余裕はなかった。


……私が尾形さんのことを、なんて。そんなの、とんでもない。

だってあの人の心の中にはまだ、絶対的な存在の女性がいるのに。

私じゃ、あの人をほんとの笑顔になんてできないくせに。

だから尾形さんに対して特別な感情を持ったところで──それはすべて不毛なものに終わるって、自分でもわかってる。

……わかってる、から。これ以上、自分の中に芽生えてしまったかもしれない感情のことは、考えないようにしていた。

もうほとんど答えが出てしまっているような今の状態じゃ、それはもう、無駄な努力なのかもしれないけど。



「(……次に尾形さんと会ったとき、今度こそ、どうしよう)」



お互い別の部署なんだし、偶然出会う確率は、本来そんなに高くないはず。……なぜか最近は、何らかの陰謀が働いてるんじゃないかってくらいやたらと会う機会あったけど……それはうん、イレギュラーだし。

徹底してまわりに注意してれば、きっとまた数日は大丈夫だろう。広い自社ビル内、どちらかが会おうと思って探したりしない限り、バッタリ遭遇するなんてことそうそう起きるはずない。

というか、今起きたら本当に困る。尾形さんの顔を見た瞬間私、ダッシュで逃げてしまう自信があるくらい。

そうなったらもう、私と尾形さんの“失恋同盟”という居心地のいい関係は今度こそ破綻してしまう。自分で蒔いた種のくせに、それだけは、どうしても嫌だ。


だから、もう少しだけ。私が自分の心を整理して、また何事もなかったかのように尾形さんと話せるようになるまで。

少しの間でいいから、私には今、彼と離れる時間が必要なんだ。
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