イジワルな彼に今日も狙われているんです。
「……うん、じゃあ、たしかにいただきました」



私が先ほど手渡した書類の内容を一通り確認し、人事部の女性はうなずいた。

不備がなかったことにとりあえず安心した私は、小さく笑みを浮かべる。



「ありがとうございます。手続きよろしくお願いします」

「うん、おっけーおっけー。お疲れさま」

「お疲れさまです」



軽いノリの彼女に一度会釈し、総務のオフィスを出る。

腕時計を確認すると、昼休みはあと15分ほどで終わろうというところだった。これなら2つ上の階にあるマーケティング部にも余裕をもって戻れる。


えっと、午後からやらなくちゃいけない仕事は西川さんに頼まれた資料作りと、あとは──……。


頭の中でやるべきことを整理しつつ歩いていた私は、廊下の門を曲がったとたん視界に入り込んできた光景に思わず足を止めた。

今は冬だというのに、ぶわっと全身から汗が吹き出た気がする。


……うそ、なんで。

なんでここに、尾形さんが……!


昨日ぶりに見た彼は今日も細身のスーツをきっちり着こなし、若干気だるそうに横の壁に寄りかかっていた。

その横顔は床を見つめていて、幸いというべきか私の存在に気がついている様子はない。とっさにぐるりと方向転換した私は、猛然とその場から逃げ出した。

目についた会議室のドアに飛びつき、難なく開いたその室内に身体をすべり込ませる。出入り口からは見えない位置、コの字型に並んでいたテーブルの下に身をひそめ、体育座りをした私は頭を抱えた。
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