ジャスティス
善一が箱のスイッチを押すと、既に宙に数センチ浮いている男の体は揺れながらプールの真ん中に移動させられた。

足から流れた血がプールの水面に落ちる度にピラニア達は我先にと言わんばかりに食らい付こうとしている。

水面ギリギリに吊るされた男の爪先を狙ってピラニア達が水面から跳び跳ねるようにして襲い掛かるが、男は足を水に浸けられまいと、必死に暴れた。



「あ″っ……うぅぐ…!!」



歯を食い縛り必死に耐える男だが、善一はさらにボタンを押した。

男の爪先が水に触れられるほどの僅か数センチだけおろされた。

温かい水が爪先に当たるのを感じたと思えばヌルッとした感触と共に足の甲に痛みを感じた。

水面から跳ね上がったピラニアが男の足に噛りついたのだ。

だが、上手くいかずに歯がかすっただけだった。

しかし夥しい数のピラニア達は同じように水面から飛び掛かるようにして獲物に向かって牙を向ける。

男は壊れてしまったように叫びながら足元にまとわりつくピラニア達を蹴り払おうと必死になった。



「あまり暴れない方がいいですよ、体力がすぐに尽きてしまいますからね」



助言程度に呟くと善一は男を残して部屋をでた。



誰もいなくなった部屋で、ただ一人。

男は自分を狙うピラニアの群れと戦っていた。

指先のない右手でロープを確りと掴み、膝を後ろに曲げて少しでも水面から遠ざけるために。

体の全ての力を絞りだし足を曲げたが、それも3分と持たなかった。

曲げるために力を入れすぎたせいか、一気に力の限界が来てしまったのだ。

ロープを掴んだ右手がじわじわと滑り、次第にパッと離された。

途端に体はグンと斜めに傾き、男の右の爪先が水面に着水した。

その刹那、男の足にはピラニア達が一斉に襲いかかった。

鋭い牙を男の足に確りと食らい付かせると肉を噛み切ろうと体を回転させるように動いた。

数分前に男が見た光景が自分の身をもって行われている。

水面には血が溢れ、噛み切られた肉片のカスが散らばる。

あまりの激痛に喉が潰れるほどに叫んだ。





食べられる、食べられる

嫌だ、嫌だ





男は泣き叫びながら力を振り絞り、足に力を入れた。

勢いよく水面から蹴りあげられた足によって、数匹のピラニアが一緒に水上へ蹴りあげられ、再び水中へと落ちた。

死にたくない、死にたくない

死への恐怖が襲い、男は狂ったように体を揺らして叫んだ。

手首が抜ければ水面へ落ちるかもしれない。

もし、そうすればプール真ん中から落ちたとしてもプールサイドまでは5メートルほど。

多少は肉を持っていかれたとしても、ここから脱出できるかもしれない。

そう思った男は左手の骨が折れても構わないと、全体重を使って手首を抜くことだけに集中をした。

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