ジャスティス
強引に体を揺すり、どうにか手首を抜こうとしていたが、手首が痛むだけで、抜ける気配すらなかった。

やがて摩擦で摩れた手首は火傷をした皮膚のように痛み、体力も既に限界。

力無く、左手首だけでぶら下がるしかなくなった。

途端に、足にはピラニア達が男の足を求めて食らい付いた。



「あ"あ"あ"ーーーーーーーー!!」



皮膚を抉られ、その傷口すらも抉られる痛みに腹の底から叫び身を捻らせたが、既に足を振り上げる力も残っていなかった。

意識を保ちながら、爪先をピラニア達に食されるのを、ただただ耐えるしかなかった。

まるでナイフで爪先を何度も何度も刺されるような痛み。

脂汗が滲み、胃液が込み上げるのを感じ、その場に嘔吐した。

男には叫ぶ気力も力も残ってはおらず、ピラニア達が噛る力で小さく揺れるだけしかできなかった。







ドアが開き、虚ろな視線を向けると着替えを済ませた由良が善一と共に入ってきた。

吊るした男を操作してアクリル板の近くまで移動させ、近くまで寄ると、小さな声で唸るだけの男の姿を、由良は汚らわしいものでも見るかのように視線を細めて見た。



「爪先、もう無くなっちゃったね」



男の爪先は既に肉がなくなり、骨がむき出しになっているが既に感覚はなく、意識も由良には向いてはいなかった。

顔は青白く、屋敷に怒鳴り込んできた時とはまるで別人のようだ。



「もーすぐ楽にしてあげるからね。頑張って」



柔らかく微笑み、そう言う由良に男は小さな声で絶え絶えに"助けてください"と呟いた。

だが、由良は困ったような表情で首を振った。



「それは出来ないよ。だって、あんたは今まで好き勝手してきたでしょ?さんざんいろんな人に不快な思いさせといて今更だよね。それに私、煽られることほど嫌いなものはないの。残念だけど、あんたは私にとって、この世から消し去りたいくらい不愉快な存在だから」



そう言った由良の顔は無表情で、男はその顔を見て善一に感じた恐怖以上のモノを感じた。



昨日までの俺は自由気ままだったはず。

気に入らなければ八つ当たりは当たり前、喧嘩だって負けないし、怖いものなんて何もなかった。

それなのに、なぜ自分がこんな目に遇わなければいけないんだ。



目の前に立つ自分よりも遥かに小柄で弱そうな女に、今まで感じたことのない恐怖を感じた。



由良はゆっくりと近付くと右手をゆっくりと上げた。

その手にはサバイバルナイフが握られていた。



「あまり動かないでね。今シャワー浴びたばかりだから汚れたくないから」



「や、ゃめ……だっ…ぁ」



切っ先が男の腹をスーっと触ったかと思うと生暖かさと、くすぐったさを感じた。

思ったほどの痛みはなかったが、熱を持ったようにジンジンと疼いた。

吊るされた格好から由良を見ると白い肌に長い睫毛が見えた。

由良が見上げると視線が合い、由良は唇を引いて微笑んだ。

こんな状況にも関わらず、まじまじと見た由良を可愛らしい女だと思ってしまった。

その瞬間、男の体が激痛を襲い、息も出来ないほどの痛みを襲った。

ゆっくりと離れる由良の手には刃が真っ赤に染まったナイフが握られていた。

まるで熱線でも撃ち込まれたように脇腹が熱く、頭がぐらぐらと揺れた。
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