素直になれない雨と猫
三度目に出会ったとき、私は息を止めた。



「こんにちは」



いつもそうだ。

同じトーンで同じ言葉を口にする。

無視してもよかったのに。だってわたしは散歩していただけなのだから。


クッキーの彼は洋菓子店ルノールの近くで、数匹の野良猫に餌をやっているところだった。

わたしをみつけた彼はなんだかとてもうれしそうだ。



「だれですか」



十分用心しながらあくまで冷たく返す。

立ち止まらないように足を前に進めてはいたが、抜き足差し足といった感じで、逆に怪しい動きになってしまった。



「え? クッキーは受け取ったのに、僕のことは忘れたの?」



ひどいなあ。と、つぶやいたわりには、全然残念そうじゃなかった。

むしろ楽しそうだ。


彼の持っている餌に向かって、野良猫が手を伸ばしている。

早くくれ、とでもいっているみたい。
< 19 / 20 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop