私の秘密の婚約者
【バイト先】
『ごめんなさい、少し遅れてしまいました』
『時間通りだから大丈夫よ。ゆっくり準備をしていらっしゃい』
『はーい』
私のバイト先は閑静な住宅街になる小料理屋さん。
ご夫婦で営んでいて、2階が住居スペースとなっている。
2階の一部屋が私が着替える部屋となっている。
準備が完了して下に行くと二人は仕込みをしていた。
『準備出来ました』
『じゃ、看板を出してきてくれるかしら?』
『わかりました』
旦那さんの裕一さんと奥さんの麻子さんは先生の両親で交際を認めてくれている。
バイト先をここにしたのも、いろいろと融通が利くからだ。
『莉音ちゃん。今日、遅れたのって誠のせいなんだろ?』
裕一さんはニヤニヤしながらこちらを向いている。
『教室から見る夕陽が綺麗で下校時刻を過ぎても教室に居たのが誠さんに見つかってしまって…』
本来の目的は先生に会うことだったけれど、それは言わなくてもお二人にはばれてしまっているだろう。
『そうなのね』
『ところで、誠は今日、莉音ちゃんがラストまで入っているって知っているのかい?』
『はい、迎えに来てくれるそうです』
『そうか、先週の今日だから安心したよ』
お二人が心配しているのは先週のあのこと。
『こんばんわー』
ちょっと重くなりかけた空気を切り裂くように入り口のドアから声がした。
『いらっしゃいませ、飯田さん』
来てくれたのは常連客の飯田さん。
『お、今日は莉音ちゃんがいるんだね。おじさん、たくさん注文しちゃおうかな~』
いつものような冗談ぽい口調。
『飯田さん、ウチの莉音に迷惑をかけないでくださいよ?』
それをいつも麻子さんが忠告をする…うん、いつもの光景だ。
『こんばんわ』
『いら…っ』
『莉音、迎えに来たよ』
嫌だ…何で私の前に現れるのよ…
私は体が震えだして立っていられなくなった。
そんな私を後ろから飯田さんが支えてくれた。
『莉音ちゃん、どうしたんだい?』
私は誰かにしがみつきたくて飯田さんの後ろに隠れた。
『莉音、どうして隠れるんだい?出ておいで』
あいつが近づいて来るのが分かる。
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