ダブルベッド・シンドローム
─それから幾日が経った。
朝から、何度も母から電話がかかってきて、引っ越しの進捗状況をやたらと気にかけているようであった。
もといたマンションから、これから住むこのマンションまでの距離は、それこそ駅二つ分くらいだ。
引っ越す意味があるのかと言われればそれまでだが、私は今までのマンションでは、いくつか不都合があった。
まずは、私の新しい職場まで、少し距離があったことである。
DOSHIMAで勤めるには最適な距離であったかもしれないが、晴れて、少し離れた小さな病院への転職が決まったことで、貴重な朝の時間を有効に使いたいということと、もし職場から要請があれば、いつでもすぐに駆け付けられる距離にいたいということを思ったのだ。
次に、前のマンションでは、最大二人までしか眠れないということである。
寝具はダブルベッドのみであった。
もとより誰かが泊まるということを想定されていなかったようなので、例えば社長や、奥様、そしてマイとメイ、彼らが遊びに来たとして、「どうぞ泊まっていって」と言うこともできない環境であった。
これからそんなことがあり得ないとも限らない。
いや、きっとそんな日が来る気がしているのである。
「マイ、メイ、うるさいよ。こんな綺麗なマンションで騒がないで!ご近所迷惑でしょ!」
この埃ひとつないピカピカの床を、双子はスケートリンクのように靴下を滑らせるものだから、私は家具の位置を整えながら、双子の頭をペシンペシンと平等に叩いた。
「「菜々子の方がうるさいよ。」」
「菜、々、子、さ、ん。」
私の家の姪の方が、よっぽど出来がよくて素直である。
今日は社長と奥様が食事に行っているようで、「引っ越しの手伝い」という名目で、この双子は私たちに押し付けられたのだ。
双子は、積まれたダンボールの中から、私のヒールの靴を引っ張り出して、キャーキャー騒ぎながらこの綺麗な床の上で、カポカポとそれを履いて歩き回り始めた。
「あーもう!床が傷ついちゃうでしょ!」
「そんなにオバチャンみたいにうるさいと、慶一に嫌われちゃうよ。」
「嫌われちゃうよ。」
「はあ!?」
慶一さんは家具を運ぶことを手伝っているのだが、笑いながら、「そんなことで嫌いになりませんよ」と答えてくれたので、私は思わず赤面し、そして双子がそれを覗き込んできた。