ダブルベッド・シンドローム
「じゃあ、お疲れのところすみませんでした。ユリカには、急ぎの用事ではないので、また連絡してみます。」
『うん。またね。彼氏さんとお幸せに。』
私は、時々の感情に考えを流される気概があり、自分が幸せであるか否かで、他人の幸せを願うか否かが左右されることが多くあった。
ユリカのことも、専務との結婚に希望を持っていたときは、先生との不仲を願ったことなどなかったのだ。
私は、自分で思っていたより、性根の悪い自分が心底嫌になった。
電話を切ると、私は危惧したとおり、数年前の惨めな自分に戻されて、そして、ユリカに対する自分の本音に気づいてしまって、やはり自分はつまらない人間だ、と思うのだった。
そんな私が、格好よくて、お金持ちで、優しくて、何の問題もない素敵な人と平和な結婚ができるなんて、そんなものは幻想だったのだ。
結局は、社長に利用されている専務に、これまたさらに利用されていただけなのだ。
私は専務に「利用されている」ということを、頭の隅で自覚しておきながら、それをさらに自分も利用しているのだと、無意味に意地を張っていた。
お互いが上手くいくための結婚、そう位置付けることで、どうにか自分を保っていた。
しかしどうしても、私はそういう人間ではないのである。
専務に愛されたかったのだ。
専務に愛してもらえれば、きっと私はすぐに、専務のことを好きになる。
結局私が他人に求めているものは、いつだって情の部分なのだ。
「菜々子さん!」
鍵穴に、慌てて鍵を差し込む音がしばらくしていたから、専務が帰って来たことには驚かなかった。
私の気分は、これまでにないほどぐちゃぐちゃであったが、それは半分くらい自分のせいであり、おそらく専務のせいではなかった。