ダブルベッド・シンドローム


専務の答えは、とても感動的ではあったが、しかし私が求めていたもの、いや、今回の質問の意図からは、ほんの少しだけずれていた。

また、彼は私の過去形での質問に対して、現在形で答えるという高度なことはできなかった。

私はそこになぜだか、必死に質問に正しく答えようとする彼の姿勢を、好ましく感じとったのである。

私は諦めず、微調整を入れることにした。


「私は、専務が私との結婚を、頑張れば頑張るほど、社長の影が見えるのです。頑張ってほしくないんです。私を幸せにすることを、努力しないでほしいんです。」

「す、すみません、」

「いえ、謝っていただくようなことじゃないんです。専務は悪くないんです。さっきのような言葉は、別の機会で聞いたとしたら、とても嬉しい言葉です。でも、今回は特殊で、私が聞きたいことは、もう少し別のところにあります。・・・専務は、私に、専務をどう思ってほしいと感じますか?」

「ええと・・・」


そこまで聞いたところで、専務を、専務の理解できない言葉で質問攻めにすることは、それは私も卑怯であると思い当たった。

これは彼を試していることに他ならない。

彼にそのようなことをしても、望む結果にならないと分かっているし、意図の伝わらない質問を何度投げ掛けても、それは無意味であるのだから、私もいい加減に、やめなければならない、そう思い始めた。

つまり私は何を言いたいのか、それは、専務は私に、愛されたいかということである。

そして専務は、私を愛してくれるかということである。

それだけを伝えればいいのである。


「専務は、私が専務を愛したら、私を愛してくれますか。」

「えっ」


どんな答えが返ってくるのか、まるで検討がつかなかったが、もし「分かりました」という答えが返ってきても、きっと私は納得することができないと思う。

かといって、「それはできません」という返答であったら、そのとき自分がどんなにショックを受けるのか、想像することすら恐怖であった。


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