ダブルベッド・シンドローム
「一日があまりにも長く感じるんです。一人でここに籠っていると、考えなくてもいいようなことまで考えてしまって。私には、これといって退屈を凌げるような趣味もないですし、仕事をするのも嫌いではないですから。」
「そうですか。また病院で勤めたい、ということですか?」
「いえ、看護師はやりません。向いてなかったので、私。何か他の職を探そうと思っています。」
「見当がついているのですか?」
「いえ、それもないです。」
思いつきの域を出なかったが、看護師としてしか就職活動をしたことがない私は、再就職は簡単にできるものだと思っていた。
それに、すぐに見つからなくてもかまわなかった。
就職活動で一日潰すのも、実際に働いて一日潰すのも、私にとっては同じことで、ただ自分の生活のために行動を起こしている事実がとりあえずあれば良かったのだ。
働くことについては、とにかくそれくらいに軽く考えていた。
実際、看護師として働いていた経験に比べれば、楽そうだと思える職はいくつも思い当たっていたので、働くことくらい億劫でも何でもないのだ。
しかし慶一さんは私の軽い思いつきに対して、それを絶対に失敗なく進めるにはどうしたらいいのか、私の何倍も熱量を使って考えてくれた。
「正直、僕は、菜々子さんが働くことについて上手く助言をすることはできません。それどころか、菜々子さんが働くこと自体に、父が良い顔をしないのではと心配しているところです。」
「社長さんが反対するんですか?なぜ?」
「あなたに苦労をかけてしまうことになりますから。父は菜々子さんを気に入っているので、僕が不甲斐ないことをすれば、良い顔をしません。」
「そんなこと、社長さんも慶一さんも関係ないじゃないですか。私が働きたいだけなんですから。私の希望なんですから、社長さんは良い顔をするんじゃないですか?」
「・・・僕といるのは退屈だから、働きたくなったのではないですか?例えば、それでしたら僕に責任があります。」