ダブルベッド・シンドローム


「ユリカはどうしてますか?」


この間の電話で、先生には同じ質問をした。

そのとき「普通だよ」と答えたことを、私が二人が上手くいっていないと判断した理由は、先生は何でも良い方へと捉えがちであるからだ。

仮に二人の仲が本当に「普通」であったのなら、彼は「めちゃくちゃ上手くいっている」と答えたはずなのである。


「・・・うーん、そうだね。」


だから先生がこんな風に、何とも答えず、悩ましく濁しているということは、二人は相当、危機的状況だということだ。

私は二人が上手くいってほしくない、などという気持ちは綺麗さっぱり消え失せていて、それは専務と愛し合うことを誓い合った余裕もあるのだろうが、しかし、少しくらい痛い目があってもいい、と思った二人が、まさか本当に別れるようなことになるということは、それはおそらく、初めから望んでいないことであった。


「浜田先生?」

「宮田さんはさ、本当に知らないんだね?俺にわざと黙ってるわけじゃないよね?」

「なにがですか?」

「ユリカが今どこにいるのか。」


私は意味が分からず聞き直したが、先生はまた「ユリカが戻らないんだよ」と言い直すだけであった。

ユリカは人と衝突することはよくあったのだが、決してそれによって、理不尽に相手を避けることはしない人だったはずだ。

相手の言うことが言いがかりであるか、相手に何を言っても無駄だと思っているか、いずれかでなければ、ユリカはとことん、相手と話し合う人だった。


「ごめんなさい、私、何も知りません。というか、大丈夫ですか?もしかして行方不明とかじゃなくて?」

「いや、書き置きがあったから。しばらく戻らないって。」

「何か心当たりは?出ていく前、喧嘩したとか、そういうことはないんですか?」

「・・・。」

「浜田先生?」

「喧嘩、したよ。喧嘩というか、俺が一方的に、ユリカを責め立てただけなんだけど。でも、俺としては、許せなかったんだよね。もし、宮田さんもこのことを知ってたなら、俺はけっこうショックなんだけどさ、その、宮田さんは、ユリカが俺と結婚したのは、誰でもいいから玉の輿に乗りたかっただけだった、って、知ってた?」

「えっ」


それを聞いたとき、私が真っ先に思ったことは、「今さら?」ということである。


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