【SS集】1分で読める超短編
「おばさん、心配してた」

ゆっくりと、私のとなりに腰を下ろして彼は海に向かって言った。

「連絡してないもん」

外泊する時は必ず連絡をすることが家のルールだから、心配性の母を不安にさせてしまっただろう。

「しろよな、別に俺にでもいいし」

けろりと言った彼の言葉が、小さな棘のように私の心に刺さった。
痛痒くてひどく憂鬱になる。

私は頷くことができなかった。


私たちの間に生まれた空虚な時に、冷たい潮風が吹き込んできた。

バカだな、私。

「バカだなぁ」

私の気持ちを代弁するように彼は呟いた。

ああ、重症だ。同じことを思っていたというだけで嬉しくなってしまう。

「バカじゃない」

虚しくなるから抗った。
本当は自分でも分かるほど重度の馬鹿なのに。

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