少女たちの選ぶ道
* *
「またね、沙紀」
「バイバイ優子…」
私と優子が住んでいる家はそこまで遠くはない。寧ろ近い方だと思う。
坂を上って右に曲がれば優子の家があるのだから自然と幼馴染になるのには十分だった。
両親は共働きのため家には恐らく先に帰っているであろう弟だけ。
鍵で玄関を開けるとパタパタと二階から降りてくる音が聞こえてきた。
「お帰り、ねーさん」
「ただいま」
双子なのに私のことを『ねーさん』と呼ぶことに関しては昔からの癖だ。
本来なら同じ中学校に通うはずだったのに聖和中学校が女子校になったせいでバラバラに通うことになってしまった弟の芳樹
思春期に差し掛かる時期にも関わらず私へのスキンシップは未だにあり、それを私が拒否すればいいが受け入れているためやめることがない。
「重いよ、芳樹」
「……………」
中学生になってから急に身長が伸び出して、同じぐらいだったのにいつの間にか私よりも三十センチは高い。
体が大きいから猫のように抱きつかれると疲れてしまう。
芳樹は優しい性格だけど気まぐれな部分もたまにあるから私は余所では芳樹のことを猫と呼んでいる。
「芳樹?」
本当に離れようとしないから、どうしたんだろう?と疑問に思っていたらギュ~っと何処からか虫の音が聞こえた。
「芳樹、まさか昼ごはん食べてないの?」
お腹空きすぎて甘えてる?
「………………」
無言は肯定と受け取ろう。
芳樹は料理が出来ないわけじゃないけど味付けがいつも濃い。
食べれなくはないけど体に良くないと、お母さんに指摘されてから自分から作ることを避けている部分があった。
お母さんは怒ったつもりはなく、ただ心配したからこその発言だったんだけど芳樹は傷ついたみたいだった。
「はぁ、食べないで今まで何してたのよ…」
芳樹のことだから宿題をした後、ゲームをしていたか本を読んでいたか…。
もう、お昼ご飯を食べるような時間でもないけど晩ご飯まで保つとは思えないし何か作ってあげるしかない。
「芳樹、チャーハンでいい?」
そう言うと芳樹はやっと離れてくれたけど、余程お腹が空いていたのかフラフラな足取りでリビングにあるソファに座った。
「冷凍食品あるじゃん」
キッチンにある冷蔵庫を開けると、パスタとかパエリアとかチャーハンとかカレーとか電子レンジでチンすれば出来る物がたくさんあった。
まぁせっかくだから手作りしよう。
「えーと、野菜と米は…」
両親から『双子だから仕方ないかもしれないけど沙紀は芳樹に甘すぎる』とよく言われる。
私は無意識に行動しているから、けして甘やかしているつもりはないけど蔑ろに出来ないのは事実で、芳樹が私から離れていくなら私はそれを受け入れる。
私と芳樹は双子の二卵性
似てるところはほぼ無し
猫目の芳樹とツリ目の私
胸辺りまである髪をショートにバッサリと切れば後ろ姿だけだと芳樹と似ている部分があるかもしれない。
髪を切るつもりは一切ないけど。