クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~


だけど……そうか、と納得すると同時に、でも、と疑問が浮かんだ。
だって、七年も経ったって私の気持ちはあの頃のままだ。

別れを切り出されたあの時から、八坂さんは別の方向に向かって歩き出しているのに、私はまだ……そこに残されたまま。

無理やり気持ちを動かそうとすることも、他の誰かで紛らわせようともしてこなかったけど、いつまでもここにいたままじゃ何も変われないのかもしれない。

でも、だからってどうすればいいんだろう。

……例えば。
例えば八坂さんに好きだって伝えたら、結果が悪くてもなにかが変わるんだろうか。

頑として動こうとしない私の気持ちも、転がり始めるんだろうか。

「気持ちがいつ変わるかなんて、自分でもわかんないでしょ? だから、吹っ切って次いけるなって思えるようになるまでは、諦められないのかなーって」

ゆっくりと視線を向けると、座ったまま空を見上げる井村さんが映る。

曇りがかった空に星は見えないのに、その横顔は晴れ晴れして見えた。

「好きなのに、無理やり気持ちを押さえつけるようなことは性格上できないし、諦められないかぎり、好きだ好きだ言って迷惑かけちゃうと思いますけどね。
でも、そうしている間に倉沢さんの気持ちが変わる可能性だってあるし」

たしかに、その通りだなと思う。
倉沢さんの気持ちが動く可能性は、ゼロじゃない。

井村さんがあまりに明るい顔をしているから……眩しく感じて目を細めた。
どこまでも前向きな考え方がうらやましくて、プラスチックスプーンを持つ指先にキュッと力をこめた。


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