クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~


「例えば、倉沢さんに彼女がいたとして……それでも、井村さんは積極的に動けますか?」

井村さんだったら、どうするんだろう。
そう思い聞くと、キョトンとしたあと、ニヤリと口の端をあげられる。

「なんですかぁ? 瀬名さんの好きな人には、彼女がいるってことですか?」

まぁ……ああ聞いたら、察しもつくかもしれない。

相手さえバレなければ、隠す必要もないから「そんなところです」と答えると、井村さんは、楽しそうな顔で「へぇー!」と笑みを浮かべた。

「んー、だとしても、変わりませんね。奪うつもりでいきます」

ハッキリと言われ、思わず口を開く。

「でも、彼女からしたら迷惑ですし、傷つける結果に……」
「他の女が告白しただけで、なんで彼女が傷つくんですか? 傷ついたとしたら、それは彼氏が曖昧な返事をしたからとかで、彼氏の反応にでしょ。
極端な話、色仕掛けでガンガン誘惑したところで、彼氏がそれをきちんと断ってたら傷つかないと思いますけどね。逆に優越感っていうか」

言葉をなくすっていうのは、こういうことなんだと思った。
ぐうの音もでない。

「頑張って気持ち伝えるのは、自由ですよ。彼女がいるから告白さえ許されないなんてこと、ないんだから」

モンブランを口に運びながら、井村さんが笑顔で続ける。
出逢ったときからずっと、井村さんの瞳はキラキラとしていて前しか見ていないことに、今さら気付いた。

「好きになった人ですもん。信じてぶつかればいいんですよ。知りもしない彼女を気遣っていい子ぶってたら、チャンス逃しちゃいますよ」

井村さんの口が、ニッと弧を描く。
思わずふっと笑みがこぼれていた。

「よく、言われてました。優等生って」

歳も違えば、タイプだって違うのに、話はまったく尽きようとしなかった。

遅くまで話し続けるうしろで、何本もの電車が通り過ぎるのを聞いていた。






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