クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
例えば、今日のことを、八坂さんは彼女にどう説明するんだろう。
看病相手が元カノなんてことは言わないと思う。
優しい人だから、彼女を傷つけるような言葉はわざわざ出さない。
でも……だったら、こんな過保護なこと自体、しなそうなのに
きちんと一線引けるひとだと思ってたのに……私の思い違いだったのかな。
それとも、元カノとかそんな関係よりも、もう同僚だとかそっちの枠の方が強いってことなんだろうか。
ただの同僚だから、なにも考えずに、彼女に遠慮する必要もなく、過保護に接してくるのかな。
だとしたら……嫌だな。
同僚として仲良くするより、元カノとして気まずく接してくれたほうがいいなんて言ったら、八坂さんを困らせるだけだろうか。
でもそんなの、八坂さんにあんな顔して別れを切り出させた私が言えることじゃない――。
おでこがひんやりとし、その気持ちよさに、目を開ける。
深いところにあった意識が、じょじょに浮上する。
小さい音量にされたテレビだけがついている、薄暗い部屋。
ぼーっとしていると、視界に誰かが入り込む。
「悪い。起こしたな」
八坂さんだ。
おでこが冷たい。
冷却シートを貼り変えてくれたみたいだった。
「……いえ。帰らなかったんですか?」
「放っておけなかったから。帰ったところでどうせ暇だから気にすんな」
口の端を上げる八坂さんに「すみません」と謝る。
暇だなんて、きっと嘘だ。
「これくらいなんでもねーだろ。それより、なんか欲しいもんとかあるか? また寝るにしても、とりあえず水分補給だけしろ」
背中に手を入れられ、上半身を起こされる。
渡されたペットボトルに口をつけコクコクと飲み込むと、八坂さんが私の手からペットボトルをとり、フタを閉めた。