クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~


「んー。うまい。あ、瀬名ちゃんも食べてよ」
「私はいいです。倉沢さんにあげたものですし」
「でも、俺は一緒に食べたいから。はい」

残っているショートケーキを渡されて、渋々受け取る。
そして、ペリペリとパッケージを開けていると、隣で倉沢さんが話し出す。

「俺ね、誕生日とか、あんまり祝ってもらえなかったんだよね」
「……そうなんですか」

電車がガタゴトと走っていく音が聞こえる公園。
倉沢さんが静かに言う。

「父親はあまり家にいなかったし、母親も家庭的とかそういう人じゃなくて、外で働いてるのが好きな人だったから。兄弟もいないし、わりとひとりでいることが多かった」

パクッとケーキを食べながら言う倉沢さんに、私も同じように一口食べる。

「うまい?」と聞かれてうなづくと、微笑まれた。

相変わらず、ため息が落ちるほどの美形だ。

「俺の外見だけは自慢みたいで、誰かに紹介するとかそういうときだけ連れ出されたけど。自分の息子が褒められるのが嬉しかったみたいでさ。
俺が褒められて母親が誇らしそうに笑ってるの、子どものころは純粋に嬉しかったんだけどね。小学校あがって少しした頃から、なんだよって思うようになった」

遠くで、踏切の遮断機の警告音がする。
倉沢さんは、開いた膝の間でケーキを持ち、目を伏せ続けた。



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