クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~


「俺の気持ちなんか、どうでもいいみたいでさ。俺は、ただ飾ってりゃいいだけの見せモンじゃねーのに。
まぁ、俺なんでも誰よりも似合ってたし、着せ替え人形にしたい気持ちもわかるけどね。でも……そんなんじゃ、足りないし」

倉沢さんは、ハハッて笑うように言ったけれど……笑みを浮かべる横顔に、胸が痛んだ。

充分だって思えるほど、愛情を注いでもらえなかったんだと分かったから。

さっき、誕生日だからってケーキを渡したとき驚いていたのは、祝われなれていなかったからなのかもしれない。

「全然足んなくて、でも誰も足してくれなくて、そのまま高校生になった。好きとか言われたこともあったけど、どうせ母親と一緒で外見に惹かれてるだけだろうし、虚しい気持ちになるのも嫌だったから相手にしなかった。
でも、そのうちに先輩から告白されてさ」

口元に浮かんでいる笑みが、少しだけ柔らかくなる。
声も、わずかに軽くなった気がした。

「俺のことすごく好きだって言ってくれて……断っても断っても、何度も告白してきて、ああ、もしかしたらって信じるようになった。俺が付き合ってもいいって言ったら、その人、泣いて喜んでくれてさ。
それを見てすげー嬉しかったのを覚えてる。外見だけじゃなくて俺自身を必要とされてるって、自分で思えるのって嬉しいんだなって初めて実感した」

「すごく嬉しかったんですね」

繰り返すと、倉沢さんは私の方を見て、笑みを浮かべうなづく。

私は、普通の家庭で育ったし、親にも愛情を注いでもらったから、今聞いたような経験はない。

でも、倉沢さんの気持ちは、想像することができた。
今まで、倉沢さんの言葉の端に、引っ掛かりを覚えることがあったけれど、その原因はこういうことだったのかと納得していた。

「でも」と続けた倉沢さんが、眉を寄せ、わずかに顔色を曇らせた。


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