クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「両親に充分な愛情を注いでもらえなかったってことには、想像して悲しくなりました。小さいころ、ひとりで過ごす時間が多かったってことにも。
でも、ひくくらい泣いた失恋をしたことについては、特に」
「え。なんで?」
意外そうに言われて、こっちが面食らってしまう。
「相手の方がひどいなっていうのはありますけど……でも、それくらいの失恋、誰でもしたことありますよ。私だって、失恋して自分でも笑っちゃうくらい泣いたことありますし」
「え、そうなの?」と、驚いて言う倉沢さんから目を逸らし、ケーキを一口食べる。
「倉沢さん、たぶん、ナイーブなんですよ。そんなひどい人に一度フラれたくらいでグレて、真剣な恋ができなくなっちゃうなんて相当です。
そんなの、どう考えたって相手の女性が悪いのに、そんなにしっかり傷ついちゃうなんて」
七年前の恋から抜け出せずにいる自分も相当だけど。
倉沢さんと私じゃ、事情が違うけれど、お互い、過去の恋に囚われたままなのは同じだ。
フォークの先でクリームをすくいながら続ける。。
「まぁでも、倉沢さんが愛情不足なんだなってことと、顔がいいのも大変なんだなっていうのは、今日一日でよくわかりました。マダム寺田さんのこと含め」
最後にわざと付け足した名前に、倉沢さんは「思い出させないでよー」と口を尖らせてケーキを食べる。
その様子を視界の隅で見ながら「倉沢さんは」と話す。