きたない心をキミにあげる。
☆
黒い縁に囲まれた写真には、控えめに微笑む弘樹の姿があった。
いつ頃撮った写真だろう。
お前と知り合う前かな。それとも今年に入ってからか?
お前のこともっと知りたかったのに。
そろそろ心を開いてくれると思ったのに。
何で俺を助けて、お前だけ死ぬんだよ。
「弘樹……」
久しぶりに来た弘樹の家は、何も変わっていなかった。
両手を合わせ、きつく目を閉じると、線香の匂いに包まれた。
ギプスのせいで座れないため、母に支えられ立ったまま。
ゆっくりまぶたを開けた時、
しっかりした口調で俺と母に声をかけてきたのは、弘樹の父親だった。
「あれは、仕方のない事故だったんです。加害者も亡くなられましたし。
もちろん今は心に穴が開いたような気持ちでいます。
でも……私たち家族が前が向いて生きていかないと、弘樹が報われないような気がするんですよ」
初対面だったが、なんだか懐かしい感じがした。
話しぶりや表情に弘樹の面影がある。
芯がぴんと通り、常に外向けの対応を崩さないイメージ。
「だから圭太くん、弘樹の分までしっかり生きて。それが私たちの願いでもあるから」
弘樹の母親も、優しい声と美しい笑顔を俺に向けた。
「ありがとうございます。でも、本当に……すみません……うっ」
申し訳なさ、苦しさ、そして、安堵。
弘樹の両親からの言葉に感情があふれ出してしまった。
圭太くんが謝ることなんてないんだよ、と彼の父から優しく諭される。
弘樹からもお前はしっかり生きていけよ、と言われたような気がした。