きたない心をキミにあげる。
学校帰りに、弘樹の家に遊びに行ったことはある。
彼の家は住宅街に並ぶ、小さめの一軒家だった。
中の様子から察するに、俺は弘樹が3人家族だと思っていた。
遊びに行った時には、彼の母親しかいなかったが、
リビングの隅にゴルフセットらしきケースが置いてあったから、父親はいることが予想できた。
弘樹から妹がいることは聞いていなかったし、
彼の家に同世代の女子が住んでいる気配は一切なかった。
ちなみに弘樹の母は、とても綺麗だった。
テレビに出ている、元アイドルの40代的な年相応の美人。
いらっしゃい~と嬉しそうに挨拶し、手作りの美味しいお菓子を俺たちにふるまってくれた。
う、美味いっす! と俺らは彼の母にデレデレしながら、ぼりぼりとお菓子を平らげた。
薄暗くなる天井を眺めていると、病室に明かりが灯された。
「今日は調子よさそうじゃん。あ、友達が来てくれたんだ?」
仕事を終えた母がスーツ姿のままやって来た。
「あんた、こんなの見ても体動かせないし、ただもんもんとするだけでしょーが」
「うるせーよ。ほっとけよ」
さっき友達にもらったグラビア誌を片手にニヤニヤする母。
弘樹の母親とは大違いだなぁ、と思わずため息をついてしまう。
ただ、母が事故にあう前と同じ、普段通りの接し方をしてくれることに安心した。
「そうだ。あんた車椅子じゃなくて松葉杖でいけるっしょ?」
「え、どこに?」
「外出許可出そうだし、弘樹くんにお線香あげに行かなきゃ。ね」
着替えやタオルをカバンから出しながら、母はおだやかな声を病室に響かせた。