眼鏡とハンバーグと指環と制服と
泣きたい気分なのに、涙はちっとも出てこない。
やっぱり、夏生の傍じゃないから。
もうこれから一生、私は泣けないんだろうな。

……ばいばい、夏生。
泣かないでね。


一日をぼんやりと過ごす。

ちょっとでも考え事をすると、つらくなるからなにも考えなかった。

空っぽで亜紀ちゃんたちといつも通りを演じてた。

帰りは、どうしてもひとりで寄りたいところがあるからって、心配そうなふた
りに断って柏木さんのところへ行った。

「それで。お返事は?」

「私が芝浦の家にいってあなたたちにいわれることに従えば、夏生は教師を続
けられるんですよね」

「はい。
そのように取り計らいます」

「わかりました。
よろしくお願いします」

……こうして私は。
約一年、夏生と続けた結婚生活に終止符を打った。
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