新・鉢植右から3番目
ふぎゃあ、と小さな泣き声が聞こえて私はハッとした。
「あ、はいはい、お目覚めですか~」
私は縁側から身をおこしてバタバタと部屋の中へ戻る。
3月の終わりに生まれたばかりの娘、桜が昼寝から目覚めたらしい。
この春先、私は予定日よりも3日遅れて、女の子を出産したのだ。いつものように我が家から徒歩5分の実家へ行って、母親とお茶を飲んでいる時に破水した。
それですぐさま病院へ。初分娩だったにも関わらず、割と小さめの我が子はするりと出てきてくれて(素敵だわ~)、出産はわずか2時間で終了。やたらと安産だったのを喜ぶのに忙しくて、夫に連絡をするのを忘れていたのだ。
だって早かったから。
ほら、一生懸命だったし。
ね、初めてのことだらけで。
まあそんなわけで、彼の母親である漆原冴子さんはがっつり病院で私の世話を焼いていて、ある時何気なく見上げた壁時計で視線が止まり、ポンと手を打ったわけ。
「あ、大地に連絡するの忘れてたわ」って。私と、私の母親も、一緒に、「あ」と言った。皆きれ~いに忘れていたのだ。普段、無口で無愛想でほとんど存在感のない、息子で義理の息子で夫のことを。
で、あらあらと思って電話をすると、史上最強の面倒臭がり屋である夫の大地はたら~っと言った。
『・・・行かなきゃダメなのか?』
出産で裂けた股の傷口が痛いのも忘れて、当然私は電話に噛み付いた。
「あんたの娘でしょうが!!」