新・鉢植右から3番目
「二つあっていいわけないでしょ、お母さん、落ち着いてよ。それにこんな大きなものは置く場所もないし。ちょっとしたオブジェのようなこじんまりしたのを貰う予定なの」
私はパンフレットにデカデカとのっている豪華絢爛のお雛様セットを指さして、無理して微笑む。
独身時代にちょっとだけ在籍した居酒屋で培った営業スマイルよ、今こそ発揮されるべき時よ!微笑め微笑め私!それも、ちょっと申し訳なさそうに、そして感謝しているかのような微妙な微笑みをするべきときよ!
すんごく頂きたいんだけど、そういうわけにもいかないの、の顔。
にこにこにこ~っと笑ったままで両方の母親をじい~っと見る。うちの母はぶすっと、夫の母は困ったような笑顔で私の顔を見ていた。
だけどそのうち冴子母さんがパンフレットを仕舞いながらうちの母に言う。
「仕方ないわ。だってお友達が厚意で贈ってくれるのだったら。ほら、ね、唯ちゃん」
「そこんなことになってるなら早く言ってくれたらよかったでしょう、都!孫にお雛様を買うのは祖父母であるはずでしょ~!?」
・・・そんな法律はないでしょ。
それは心の中で思うだけにして、私は話を切り上げるべくあらと呟いてベビーベッドへと顔を向ける。
「桜、起きたのかな?」
そう言って。
「え?」
「あら、起こしちゃった?」
途端に母親ズがそわそわし始めた。もう目に入れても痛くないってこのことを言うのだな!と思うような溺愛ぶりなのだ。・・・まあ仕方ないかもしれない。お互いに自分の子供は一生結婚もしないだろうし、子供も作らないだろうから孫など見ることは出来ないのだろうって思っていたみたいだから。