プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔

受付以外は制服がないらしく、着替える必要がない。
ロッカーへバッグをしまって外へ出ると、待っていた倉沢部長に伴われて歩いた。

エレベーターの横の案内板には、各部署が何階にあるのかが表示されている。
私が配属される予定の第二事業本部販売部は、十二階のようだ。

ほぼ満員の箱に乗り込み降りたのは、表示板通り十二階だった。
そのフロアはほかにも第一事業本部から第三事業本部までがある。
倉沢部長は私を先導しつつ、ここが給湯室でここが第一事業本部と案内してくれた。

目的地である第二事業本部販売部へ到着すると、倉沢部長の姿を見つけた年配の男性が軽く手をあげてこちらへやってきた。
倉沢部長よりも年上だろう。
髪の毛に白髪も混じっている。


「おはようございます。今日からこちらに配属される牧瀬さんをお連れしました」


唐突に紹介されて面食らいながら私も頭を下げる。


「牧瀬日菜子です。どうぞよろしくお願いします」

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」


引きつった笑顔に気づかれたか、その男性はうんうんと頷きながら私を諭した。


「ちょうどよかったですよ。牧瀬さんの前任者が切迫早産とかで緊急入院になってしまったのでね。人手不足になるところでした」

< 31 / 260 >

この作品をシェア

pagetop